海洋における環境問題には様々なものがあるが、海洋工学の研究者としては、人工構造物が自然環境に及ぼす影響評価は最大の関心事のひとつであり、そのための数値モデルは不可欠なツールである。環境影響評価というととかくネガティブな感じがするが、閉鎖海域での水質改善装置などについてはポジティブな環境変化である。この場合、まず考えなければならないのが、空間スケールの大きさについてである。環境問題は一般に広域での問題であるが、特に船舶や海洋構造物に限定すると、従来のものは最大でも数百メートル以下であり、問題とはならない。ところが、「メガフロート」に代表されるような長さ、幅が数キロのもので定点に係留される海洋構造物については内湾と同等なスケールを持ち、その影響を無視するわけには行かなくなってきた。また、構造物自体のスケールは小さくても、水質改善装置のように環境に影響することが目的となっているものについては、初めから環境を考慮して評価する必要がある。従来は、小スケールでの構造物周りの流れの解析と広域での流れと拡散の解析は別々に行われてきたが、これらを連立して小スケールから大スケールまでの連続的に解析しようというのが、そもそものMECモデル(Marine
Environmental Committee Model)開発の動機である。
「海洋モデル」は、その多くが「プリミティブモデル」とも呼ばれる非圧縮粘性流体、ブジネスク近似、静水圧近似を基礎としている。水深の変化に対応して、鉛直方向に座標変換(
座標)を用いるもの、用いないもの( 座標)あるいは等密度面座標を用いるものがある。また、複雑な海岸地形に対応するために水平方向のグリッドにも直交曲線座標を導入しているものもある。これらは、海洋の水平スケールと鉛直スケールを考えたときに納得できることであるが、流れについては鉛直成分が水平成分に比して十分に小さいという近似が成立する。「メガフロート」はその大きさと極薄さにおいて特異な構造物であるということが出来、「メガフロート」を計算対象に選ぶならば、静水圧近似も良い近似となりうるものと思われる。一方、一般的な人工構造物については、三次元方向に一定以上の大きさをもっており、その周りの流れも三次元的である。例えば、湧昇流発生装置、水質改善装置、人工漁礁などを考えるとサイズは大きくても100m前後であり、流れの3次元性も本質的であるので、それらのまわりの流れについては、一般的な3次元解析を適用する必要がある。