Modeling

持続可能な海洋利用を実現するためには、生態系を含む環境影響の予測・評価が不可欠であり、海洋環境変動のメカニズムを把握したり将来の環境変動を予測するためには、数値モデルによるアプローチが有効です。一方、現地実態の把握やモデリングにおけるデータ取得、地域における合意形成といった部分においては実際に現地に足を運ぶことも非常に重要です。そのような観点から、本研究室では沿岸域環境や生態系の保全・修復・再生に資するべく、現地における観測や調査、数値モデルによるシミュレーションの両面からアプローチして研究を進めています。

 

沿岸漁業活性化のためのシミュレータの開発

沿岸漁業は食料の安定的な供給に加え、地域社会の形成や国土の保全など、多面的な機能を有しています。しかし、日本の沿岸漁業は、漁場環境の悪化などを原因とした漁獲量減少に加え、魚価の低迷、燃料費の高騰、漁業者の減少や高齢化といった社会経済的な問題により厳しい状況下にあります。沿岸漁業の活性化のためには、漁場環境の改善や漁業資源の持続的利用といった生態系の観点からだけでなく、操業・販売戦略や流通構造の変化による生産性利益の増加といった経済的な観点を含めた包括的な解決策が必要となります。そこで、本研究室では、漁業の現状を客観的に把握し、漁業改善に向けた施策の総合的評価・立案を支援することを目的として、漁場環境・生態系・操業・流通・販売等のモデル化を行ない、生産から消費に至る水産業の全過程を再現・予測するシミュレータの開発を進めています。
具体的な事例としては、資源動態モデルと漁獲モデルを結合した漁業シミュレータ(図1-1,2,3)や、水産物流通・販売シミュレータ(図1-4,5,6,7)、ニューラルネットワークを用いた漁獲量予測モデル(図1-8)などの開発およびシミュレーションを行なっています。

 

図1-1 漁業シミュレータの構成

 

図1-2 漁業シミュレータによる伊勢湾マアナゴの時空間分布予測

 

図1-3 沿岸漁業の操業実態

 

図1-4 水産物流通・販売シミュレータ概念図

 

図1-5 水産物直販所における最適仕入量の推定

 

図1-6 水産物直販所の売上推移シミュレーション

 

図1-7 水産物販売ポテンシャルの推定

 

図1-8 ニューラルネットワークを用いた漁獲量予測

 

Ref) S. Suzuki, S. Tabeta, T. Maruyama, Y. Kurogi and Y. Nakamura. “Development of Trawl Fishery Simulator in Ise Bay”, Fisheries Engineering, 54(1), pp. 9-21, 2017

Kodai Saito, Shigeru Tabeta, Yoshiharu Nakamura, Mikio Sekine, Izumi Seki, and Hiroaki Muto, ”Evaluation of potential sales of fishery products in coastal regions of Ise Bay”, Journal of coastal zone studies, 27(3), 87-95, 2014

 

 

海洋深層水を用いた藻場造成

沿岸域にて形成される海草や海藻の群落である藻場は、水質の浄化や生態系の維持、漁業資源の供給、炭素固定機能などの重要な役割を担っていますが、近年では沿岸域の開発などによる消失が進み、水産資源の減少や沿岸漁業への経済的打撃といった深刻な影響を及ぼしています。海洋深層水は、その富栄養性や低温安定性から、有光層へ放流することにより藻場造成などの効果が期待されています。そこで、本研究室では数値モデルによるシミュレーションと実海域における実験の両方のアプローチから、藻場造成を効率的に行なうための深層水の放流方法や滞留方法および周辺海域への環境影響についての検討を行なっています。

図1-9 海洋深層水の放流挙動シミュレーション

 

図1-10 深層水の放流実験に使用したコンテナ

 

図1-11 コンテナ内での海藻育成実験

 

Ref) S. Tabeta, K. Iseki, T. Kato, Y. Arii, Y. Takahashi, and K. Ouchi. “Measurement on Behavior of Deep Ocean Water Discharged in Maja Port in Kume Island” Deep Ocean Water Research, 18(1), pp. 18‒26, 2017

 

 

貝類の生息場環境の将来予測

失われつつある貝類の生息場を改善させるため、工事による生息環境変化をシミュレーションにより予測しています。また数値モデルの入力・検証用データを取得するために、現地調査も行ないます。シミュレーションにより計算された、将来の貝類の生息場環境の評価結果は、地元住民との合意形成にも活用されています。

図1-12 電磁流速計

 

図1-13 流速ベクトル観測結果の一例

 

図1-14 地形観測の様子

 

図1-15 地形観測結果

 

図1-16 潮流のシミュレーション結果の一例

 

図1-17 貝類の生息場評価結果の一例

 

図1-18 合意形成会議の様子

 

高潮による被害予測

防災基本計画が修正され、「増加する水害リスクに備えるための水害保険、共済への加入促進」等が追記されました。今後増大が予想される、台風に伴う強風と高潮による複合被害は、物的被害の面でピークリスクになる可能性があります。リスクの移転先である保険会社では、確率論的なシミュレーションにより損害額を把握することが一般的です。しかし、確率論的な高潮シミュレーションの研究の蓄積は十分とはいいきれません。本研究室では、確率論的な高潮シミュレーションを実施して、人々の安全・安心な暮らしに貢献することを目指しています。

図1-19 高潮シミュレーション結果の一例

 

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